2019年7月1日

ツィートで実現した電撃的な米朝首脳会談

昨年のG20は、アメリカファーストを打ち出すトランプ大統領の登場で意見の調整が難航し、混迷の度合いを深めた会議となった。そのため、大阪G20ではホスト国である安倍首相の議長としての調整力が注目された。安倍首相は、対立より共通点や一致点を見いだすことが重要であるとし、一致できる部分から一歩ずつ前に進めたいとの決意を語り、首脳宣言の採択を決めた。一部のメディアは大きな成果がなかったと批判するが、日本の調整で参加国が満場一致で宣言に合意した意味は大きい。データの世界共通ルールを決める大阪トラックや海洋プラスチックの解決に向けたブルーオーシャンビジョンなどの新たな枠組みもスタートすることが決まった。各国首脳との個別の会談や交流で過密なスケジュールをこなした安倍首相や各国代表団へのもてなしや事前の調整で会議を成功裏に収めた関係者の努力に敬意を表したい。

G20会議の合間に行われた首脳会談で世界が注目したのは米中首脳会談であった。貿易問題で揉める米中が両首脳間でどのような結果を出すか、国際経済に大きな影響を及ぼす問題だけに、世界中が固唾を飲んで行方を見守った。あなたが決断すれば問題解決は簡単だと、習近平国家主席に軽くジャブを放ったトランプ大統領が、追加関税の発動は当面見送り両国間の交渉を進める、それも特にスピードは重視しないと結論を出したことに、中国はホッとしたようだ。ファーウェイ問題も、安全保障上問題なければとの条件付きで部品の輸出を認めるという。しかし、それ故に中国はキチンと成果を示す必要がある。両国間で違う時間のアドバンテージで中国がアメリカの要求をかわしきるのか、再びトランプ大統領が我慢しきれず癇癪を起こすのか、予断は許さない。

そして、何よりも驚いたのが、G20終了後にツィートで実現した電撃的な米朝首脳会談である。会って握手をするだけで良いとツィートしたトランプ大統領に金正恩委員長が応え、板門店の軍事境界線で両者の面会が実現した。その面会は、アメリカ大統領として始めての軍事境界線を越えた北朝鮮への訪問となり、その後、金正恩委員長を韓国側の施設に招き入れ、1時間にも及ぶ首脳会談となった。驚くほどの歴史的な出来事である。事前のプーチン大統領や習近平国家主席との首脳会談も影響を与えた可能性は強い。金正恩委員長が、ツィートでの呼びかけにびっくりしながらも決断すればすぐにでもできる、と語った意味は大きい。瞬く間に世界の注目は米朝首脳会談に移った。核廃棄へ向けた交渉が再びスタートする。G20では大した成果も残せず脇役に追いやられた感のある文在寅大統領も面目躍如でホッとしたであろう。急遽の板門店訪問、首脳会談決定に現場は混乱、たった24時間で重要な首脳会談が実現したとは驚くほかない。決断すればすぐにできると金正恩委員長に言わしめた見せ方も一流である。やはりこの男は只者ではない。

この歴史的な出来事で、G20における安倍首相の成果も霞んでしまったように見えるが、しかし安倍首相以外の誰かが首相だったらどんな結果になっていただろうか。蚊帳の外に追いやられるという最悪の事態になっていた可能性もある。大きく歴史が動いている中でどのような形で日朝関係を構築するのか、日本政府に求められるのは戦略的外交である。

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