2023年5月21日

世界に存在感を示したG7広島サミット

G7広島サミットが閉幕した。会場となった広島には、G7首脳や8つの招待国首脳、7つの国際機関の長とともに、ウクライナのゼレンスキー大統領も駆けつけた。戦時下の大統領が来日したのは初めてだ。

岸田首相はサミット冒頭で、「対立と分断ではなく、協調の世界の目指す」と語り、ウクライナ問題や核軍縮、経済安全保障、エネルギー、食料問題など9つのセッションを行い、6つの成果文書と4つの関連文書をまとめた。

広島を地元とする岸田首相は、ロシアへの制裁強化やウクライナ支援とともに、核兵器のない世界を目指した核軍縮を重要テーマとし、サミットに参加した全ての首脳が原爆資料館を訪問し、慰霊碑に献花をした。

この様子は世界中に報道され、核保有国である米英仏をはじめとするG7首脳や招待国首脳、ゼレンスキー大統領などが、岸田首相とともに献花をする姿は、今回のサミットの象徴的な映像となった。

岸田首相は会見で、広島の地から核兵器のない平和な世界を目指すことが日本の進むべき理念だと語り、ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序を揺るがす事態だと非難、法の支配に基づいた国際社会の秩序を守り抜く覚悟を発信するのに最もふさわしい地が広島だと強調した。

その上で、各国首脳と、核戦争に勝者はなく、絶対に行ってはいけないとの思いを共有したとし、国民の安全保障を守り抜き、核兵器のない社会という理想を求め続けていくことが、未来への道の着実な一歩であると信じる、と述べた。

ゼレンスキー大統領の対面による電撃参加は、直前まで水面下で調整し極秘だったことから驚きのニュースとなったが、G7首脳や招待国首脳との会談、会合への出席で、各国との揺るぎない連帯を示す結果となった。

核軍縮では、原爆資料館を訪問したことで、力による現状変更を求める威嚇や使用に核兵器は使ってはならないとの思いが首脳間で共有できた。しかし、ロシアや北朝鮮、中国などによる核の脅威が存在する以上、核軍縮を実現するハードルは高い。

岸田首相は、平和への覚悟を示す大きな結果を残すことができたとし、核軍縮の原則として、全ての国が国連憲章の原則を守る、対立は対話により平和的に解決する、世界のどこでも力による一方的な現状変更は許さない、法による秩序を守るの4つを挙げた。

その上で、核兵器不使用の歴史は継続させる、核兵器を減らす努力が改めて続ける、透明性を確保する、不拡散と平和利用、被爆の実相を広く知ってもらうという、広島アクションプランの実現が重要であるとした。

日本でのサミット開催は7回目だが、これほどの歴史的な会合となったサミットは初めてである。世界を代表する首脳たちを広島に招いたのは成功した。就任当初は影が薄いと言われた岸田首相だが、中曽根外交や小泉外交、安倍外交以上の成果を出し、国際社会での存在感が増した。

昨年の参院選後に下落した内閣支持率は、今年に入り上昇傾向に転じているが、今回のサミットで一段と上昇するのは確実だ。自民党内では穏健なリベラル派と見られていることがプラスに働いている部分もあり、安倍政権では難しいと思われていた政策もしっかり結果を出している。

得意の外交で次々と成果を出し、株価もバブル後の高値を更新するなど岸田政権の政策が評価され始めた。賃上げも実現しており、海外では日本経済を見直す動きも広がっている。国葬や旧統一強化問題、相次ぐ閣僚の辞任などで失っていた信頼は、徐々に回復してきた。

外務大臣の経験が長かったことや人柄の良さに加え、海外での生活経験がありネイティブな英会話ができることが、岸田首相のコミュニケーション能力の高さになっている。多くの人が今回のサミットでそのことがわかったのではないだろうか。

国会では、相手の挑発に乗らず、罵詈雑言を浴びせられても、丁寧に答弁を繰り返す岸田首相だが、欲を言うならもう少し分かりやすい答弁をすべきだ。野党の質問もレベルが低いのは問題だが、説明不足のまま法案が通ってしまうのは将来災いの種となる可能性もある。

記者会見で解散の有無を聞かれた岸田首相は、目の前の課題を解決するのが第一と語ったが、裏返せば課題を解決すれば信を問えるとも聞こえる。統一地方選で躍進した維新の会が、所属議員の国会質疑での対応で迷走しており、野党の足並みもバラバラだ。

今解散総選挙を行えば、自民党はそれほど大きく議席を減らすことはないだろう。野党が内閣不信任案を提出した際は、解散総選挙に打って出た方が良い。今後の政権運営が容易となり、来年の総裁選も有利になるだろう。野党は自身の存在意義が問われていることに気づくべきだ。

今回のサミットを茶番だと批判する人もいるが、大国の思惑を一致させるのは簡単なことではなく、一つ一つの積み重ねが大事なのは言うまでもない。原爆資料館で、各国首脳に核兵器による悲惨な現状を見てもらい、同じ思いを共有しただけでも今回のサミットは成功だと評価したい。

日本のサミット議長国としての役割は今年いっぱい続く。今後は、インドが議長国のG20やASEANとの連携などが注目される。また、今回のサミットで中国に責任ある行動を求めたことから、中国とどのように対話を進めるかも課題だ。岸田外交の真価が問われるのはこれからだ。


  • G7広島首脳コミュニケ原文 / 仮訳
  • ウクライナに関するG7首脳声明(原文 / 仮訳
  • 核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン(原文仮訳 )
  • 経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明 (原文 / 仮訳 )
  • G7クリーン・エネルギー経済行動計画(原文 / 仮訳 )
  • 強靱なグローバル食料安全保障に関する広島行動声明(原文 / 仮訳 )

  • 関連文書
    • G7ファクトシート:ネクサス・アプローチを通じたジェンダー主流化の促進(原文仮訳
    • 感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスなためのG7広島ビジョン(原文 / 仮訳 )
    • G7広島進捗報告書(英文要約要約仮訳 / 英文 )
    • G7グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)に関するファクトシート(原文 / 仮訳 )